物忘れがひどいのは認知症か 年代で先に疑うものが変わる

物忘れがひどいのは認知症か 年代で先に疑うものが変わる

「同じ話を何度もしている」「約束を忘れる」。家族の物忘れが気になり始めると、加齢によるものか認知症かをまず知りたくなります。

よく紹介される見分け方はありますが、実際にはどちらとも言い切れない段階が長く続きます。その段階には名前があり、規模も分かっています。

見分け方と、当てはまらなかったときにどう考えるかを整理します。

※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療を行うものではありません。症状の受け止め方や必要な対応は一人ひとり異なります。気になる症状があるときは、かかりつけ医または精神科・心療内科にご相談ください。

物忘れと認知症の見分け方は「体験の一部か、体験そのものか」

まず定番の対比です。判断の起点として役に立ちます。

見る点加齢による物忘れ認知症による物忘れ
忘れ方体験の一部を忘れる体験そのものを忘れる
朝食のメニューを思い出せない朝食を食べたこと自体を覚えていない
自覚忘れている自覚がある自覚が乏しい、指摘されると怒る
進み方あまり進まない徐々に進む
日常生活支障は少ない支障が出てくる
探し物置き場所を思い出せる誰かに盗られたと考えることがある

この表で「右側だ」と感じるなら、受診を検討する段階です。

ただし、この表で分けきれない段階がある

実際に多いのは「左でも右でもない」という状態です。年齢のわりに物忘れが目立つけれど、生活はまだ回っている。この段階を軽度認知障害(MCI。認知症と正常のあいだの段階)と呼びます。

厚生労働省が2024年に公表した推計では、2022年時点の高齢者の有病率は認知症12.3%、MCI 15.5%でした。MCIのほうが多いというのが実情です。

出典 厚生労働省認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究(PDF)

認知症
12.3%
軽度認知障害(MCI)
15.5%

2022年時点の高齢者における有病率(厚生労働省が2024年に公表した推計より作成)

将来推計では2060年に認知症645万人、MCI 632万人となり、合わせて高齢者の2.8人に1人にあたるとされています。

MCIは、認知症へ進むこともあれば、そのまま保たれることも、元に戻ることもある状態です。この段階で気づけるかどうかが、その後を分けます。

物忘れがひどい理由は年代で変わる

物忘れは年代で疑うものが変わる

「物忘れがひどい」で調べている方の全員が高齢とは限りません。年代によって、まず疑うものが違います。

年代先に考えるもの
20〜40代睡眠不足、強いストレス、うつ状態、飲酒、注意の問題
50〜60代上記に加えて、更年期の影響、甲状腺の機能、うつ
65歳以上加齢による変化、MCI、認知症、うつ、薬の影響

若い世代の物忘れは、認知症より先に睡眠と気分の問題を確認したほうが当たります。眠れていない状態が続くと、記憶の定着そのものが落ちます。

うつ状態でも物忘れは強く出ます。高齢者では、うつが認知症のように見えることがあり、これは治療で改善する可能性がある状態です。詳しくは老人性うつとは何かで扱っています。

治せる物忘れがある

認知症以外の原因で記憶の働きが落ちている場合、原因を治すと戻ることがあります。

  • 甲状腺の機能が低下している
  • ビタミンB12や葉酸が不足している
  • 薬の影響(睡眠薬、抗不安薬、複数の薬の組み合わせ)
  • うつ状態
  • 慢性硬膜下血腫(頭を打ったあと、しばらくしてから脳の表面に血がたまるもの)や正常圧水頭症(脳の周りの水が増えて、歩きにくさや物忘れが出るもの)など

だから、物忘れで受診したときには血液検査や画像検査を行うことがあります。「認知症かどうか」を調べているだけではなく、治せる原因を先に除外しているという意味があります。

物忘れで受診する前に家族が確認しておくこと

受診するかどうかを決める前に、次を確認しておくと医師に伝わりやすくなります。

1
いつから気になり始めたか
「半年前くらいから」でも構いません。急に始まったのか、徐々にかで見方が変わります。
2
生活に支障が出ているか
服薬、金銭管理、火の始末、道に迷う。ここが崩れているかどうかが大きな判断点です。
3
本人が困っている自覚があるか
自覚がある場合と、指摘されて怒る場合では意味が違います。
4
気分の変化があるか
元気がない、興味を失った、眠れない。うつが背景にある可能性を見ます。
5
飲んでいる薬
睡眠薬や抗不安薬を含めて、すべて書き出しておきます。

「何回同じことを聞いたか」より、「生活のどこが回らなくなったか」のほうが情報として重い、と考えてください。

物忘れで受診するとどこで何を調べるか

物忘れを専門に扱う外来があります。何をするところかは物忘れ外来とは何をするところかで詳しく扱っています。

診察では、問診に加えて、必要に応じて認知機能の検査、血液検査、画像検査を組み合わせます。認知機能の検査には長谷川式(HDS-R。医療者が質問して記憶や計算を確かめる検査)やMMSE(長谷川式と同じく、医療者が実施する認知機能の検査)といったものがあり、これらは医療者が実施する検査です。

自宅でできるチェックは認知症セルフチェックにまとめました。受診の目安を整理するためのもので、診断ではありません。

受診をためらう理由がはっきりしているなら分けて考える

「行っても治らないなら意味がない」と考えて受診が遅れることがあります。ただ、受診には診断以外の意味があります。

  • 治せる原因が見つかることがある
  • 進み方の見通しが立つ
  • 介護保険の申請につながる
  • 自立支援医療や手帳など、使える制度が分かる
  • 家族が対応を相談できる相手ができる

本人が受診を拒む場合の進め方は本人が受診したがらないときの進め方で扱っています。

物忘れと認知症の違いについてよくある質問

物忘れがひどいのは認知症の始まりですか

そうとは限りません。睡眠不足、ストレス、うつ状態、薬の影響でも記憶の働きは落ちます。年代によって先に疑うものが変わります。

加齢による物忘れとの見分け方を教えてください

体験の一部を忘れるのが加齢、体験そのものを忘れるのが認知症、というのが基本の対比です。ただし、どちらとも言えない段階(MCI)が実際には最も多い状態です。

MCIと言われたらどうすればいいですか

認知症へ進むこともあれば、保たれることも、戻ることもある状態です。定期的に経過を見てもらいながら、生活習慣や体の状態を整えることが対応の中心になります。

本人に「認知症かも」と言っていいですか

伝え方によっては強く反発されます。病名より先に「最近眠れているか」「体の調子はどうか」といった入口から、健康診断の延長として受診につなげる方法が現実的です。

通院が難しい場合はどうすればいいですか

自宅に医師が伺う訪問診療があります。ご家族だけでのご相談から始められます。

通院が難しいときは自宅での診療という方法があります

通院が難しいときは、ご自宅での精神科診療という方法があります

こころの訪問診療 byミライメディカルクリニックは、世田谷区を中心に三軒茶屋駅から半径16km圏へ精神科医が伺う訪問診療です。うつ病・統合失調症・双極性障害・認知症・不安障害などに対応し、基本は月2回の定期訪問。ご契約中の方には緊急連絡先をご案内し、24時間お電話でご相談いただけます。

  • 診療情報提供書はなくてもご相談いただけます
  • ご本人が同席されなくても、ご家族だけでのご相談から始められます
  • 自立支援医療をご利用の場合、自己負担は月2,500円〜が目安です
  • 自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳・障害年金などの診断書も作成できます

お電話でのご相談 03-6689-8121

物忘れが気になり始めた段階では、本人が受診に前向きでないことがほとんどです。こころの訪問診療は精神科医が自宅に伺う診療で、認知症も対応疾患に含まれます。

自宅での様子をそのまま見てもらえるため、生活のどこが回らなくなっているかが伝わりやすくなります。介護保険の主治医意見書(要介護認定のときに主治医が書く書類)の作成にも対応しています。

まとめ

加齢による物忘れは体験の一部を忘れ、認知症は体験そのものを忘れる、というのが基本の見分け方です。ただし実際には、どちらとも言えない軽度認知障害(MCI)の段階が長く続きます。

2022年時点の高齢者の有病率は認知症12.3%、MCI 15.5%で、MCIのほうが多いという結果でした。この段階で気づけるかどうかが、その後を分けます。

年代によって先に疑うものは変わります。若い世代では睡眠とストレス、うつが先です。甲状腺の機能低下やビタミンの不足、薬の影響など、治せる物忘れもあります。判断の材料は「何回忘れたか」より「生活のどこが回らなくなったか」です。

関連記事

LINE友達追加