急に別人のようになった。夜になると話がかみ合わない。ここはどこかと繰り返す。せん妄(急に頭が混乱し、時間や場所が分からなくなったり、見えないものが見えたりする状態)が起きたとき、家族が最初に思うのは「もう長くないのではないか」ということです。
先に答えると、せん妄が起きたことだけで死期が近いとは言えません。 原因によって、戻るものと戻りにくいものがあります。
見分け方と、今夜できることを整理します。
※本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、診断や治療を行うものではありません。症状の受け止め方や必要な対応は一人ひとり異なります。気になる症状があるときは、かかりつけ医または精神科・心療内科にご相談ください。
目次
せん妄が起きたら死期が近いのか
せん妄は、体の状態や薬が引き金になって起こる意識の混乱です。原因が取り除かれると戻ることが多い一方、終末期に現れるせん妄もあります。この2つは意味が違います。
| 背景 | 起きやすい場面 | 見通し |
|---|---|---|
| 体の不調によるもの | 感染、脱水、便秘、電解質の異常(血液中のナトリウムやカリウムなどの濃度が崩れた状態)、痛み | 原因が治ると戻ることが多い |
| 薬によるもの | 睡眠薬、抗不安薬、複数の薬の組み合わせ、麻薬性鎮痛薬 | 薬の調整で戻ることがある |
| 手術のあと | 手術後の数日間 | 多くは数日で落ち着く |
| 入院・環境の変化 | 入院直後、転居、施設への入所 | 環境が慣れると落ち着くことがある |
| 終末期のもの | 全身の状態が大きく低下した時期 | 戻りにくいことがある |
つまり、せん妄が出た事実だけでは判断できず、何が引き金かを確かめる必要があります。
医療者は、感染していないか、水分が足りているか、便が出ているか、薬が増えていないかを順に確認します。家族が「急に変わった」と伝えることが、その確認の入口になります。
終末期のせん妄はどう違うか
全身の状態が大きく低下した時期に現れるせん妄は、原因を取り除くことが難しくなります。この場合は、混乱を減らして本人が穏やかに過ごせるようにすることが目的になります。
ただし、その判断は医療者が全身の状態を見て行うものです。家族が「せん妄が出たから終末期だ」と受け取る必要はありません。
せん妄と認知症は別のもの

同じように混乱して見えるため混同されますが、対応が変わります。
| せん妄 | 認知症 | |
|---|---|---|
| 始まり方 | 急に(数時間〜数日) | 徐々に(数か月〜数年) |
| 1日のなかの変動 | 大きい。夕方から夜に悪化しやすい | 比較的一定 |
| 意識のはっきりさ | ぼんやりする、注意が続かない | 保たれていることが多い |
| 見え方 | 幻視が出ることがある | 種類による |
| 戻り方 | 原因が取れると戻ることがある | 徐々に進む |
「急に」「日によって差が大きい」「夕方から夜に悪化する」の3つが揃ったら、せん妄を疑ってください。
認知症の方にせん妄が重なることもあります。もともと認知症がある人は、せん妄が起きやすい状態にあります。認知症の行動・心理症状との違いは認知症の行動・心理症状(BPSD)とは何かで扱っています。
静かなせん妄は見逃されやすい
せん妄というと、興奮して騒ぐ状態を思い浮かべがちです。しかし、逆に反応が鈍くなり、ぼんやりして動かなくなるタイプもあります。
こちらは「落ち着いている」「よく眠っている」と受け取られ、気づかれないまま進むことがあります。急に無口になった、呼びかけへの反応が鈍いという変化も、せん妄のサインです。
せん妄に今夜やるのは6つ。体・薬・部屋・声かけ・安全・記録
今夜つけておく記録の型
記録は文章にしなくて構いません。次の6つを書き留めておくと、翌日の診察でそのまま判断材料になります。
| 書くこと | 例 |
|---|---|
| 始まった時刻 | 19時ごろから |
| 落ち着いた時刻 | 23時ごろ |
| 何をしていたか | ここはどこかと繰り返す、点滴を抜こうとした |
| 体温・便通・水分 | 37.8℃、便は3日出ていない、水分は日中コップ2杯 |
| 最近始めた薬 | 3日前から睡眠薬 |
| 昼間の様子 | 日中は普通に会話できた |
とくに「昼間は普通だった」という一行が重要です。1日のなかで差が大きいことが、せん妄を疑う根拠になります。
高熱・転倒・けいれんがあればすぐ連絡
- 高熱がある、呼吸が苦しそう
- 水分がまったく取れていない
- 転倒して頭を打った
- けいれんがあった
- 自分や他人を傷つけそうな状態
夜間に判断がつかないときのために、連絡先を確認しておいてください。こころの訪問診療では、契約中の方に緊急連絡先をご案内し、24時間お電話でご相談いただけます。
せん妄を起こしにくくする備え
一度起きた人は、また起きやすい状態にあります。次のことが予防になります。
| できること | 中身 |
|---|---|
| 水分をこまめに取る | 脱水はせん妄の代表的な引き金です |
| 便通を整える | 便秘も引き金になります |
| 昼と夜のリズムを作る | 日中に光を浴び、夜は暗くする |
| 眼鏡と補聴器を使う | 見えない・聞こえない状態は混乱を強めます |
| 薬を整理する | 増えた薬がないか、定期的に見直します |
| 環境を変えすぎない | 入院や転居のあとは特に注意します |
夜間に強く出るタイプについては夜間せん妄と原因別のせん妄で詳しく扱っています。
夜間や術後など原因別の違いは夜間せん妄と術後せん妄の違い、認知症の症状との区別はBPSDとは何かにまとめています。介護が限界に近い場合は認知症の介護が限界だと感じたときを確認してください。
せん妄についてよくある質問
せん妄は治りますか
原因によります。感染や脱水、薬が引き金の場合は、それを取り除くと戻ることが多くあります。終末期に現れるせん妄は戻りにくいことがあります。
せん妄が出たら死期が近いのですか
せん妄が起きたことだけでは判断できません。何が引き金かによって見通しが変わります。まず体の状態と薬を確認してください。
認知症とどう見分けますか
「急に始まった」「日によって差が大きい」「夕方から夜に悪化する」が揃ったらせん妄を疑います。認知症は徐々に進み、1日のなかの変動が比較的小さい傾向があります。
本人の話に合わせたほうがいいですか
否定はしないでください。ただし話を全部合わせる必要もありません。いま安全であること、自分がそばにいることを伝えるのが基本です。
家で看ている場合、誰に相談すればいいですか
かかりつけ医、訪問診療を受けている場合は担当医です。夜間の連絡先を事前に確認しておいてください。
夜間の急な変化にも電話で相談できます
こころの訪問診療 byミライメディカルクリニックは、世田谷区を中心に三軒茶屋駅から半径16km圏へ精神科医が伺う訪問診療です。うつ病・統合失調症・双極性障害・認知症・不安障害などに対応し、基本は月2回の定期訪問。ご契約中の方には緊急連絡先をご案内し、24時間お電話でご相談いただけます。
- 診療情報提供書はなくてもご相談いただけます
- ご本人が同席されなくても、ご家族だけでのご相談から始められます
- 自立支援医療をご利用の場合、自己負担は月2,500円〜が目安です
- 自立支援医療・精神障害者保健福祉手帳・障害年金などの診断書も作成できます
お電話でのご相談 03-6689-8121
せん妄は夜に強く出ることが多く、そのたびに救急へ連れて行くのは現実的ではありません。こころの訪問診療では、ご契約中の患者さまに緊急連絡先をご案内しており、夜間・休日の急な変化についても24時間お電話でご相談いただけます。
基本は月2回の定期訪問で、自宅での様子を続けて見ていきます。認知症も対応疾患に含まれ、介護保険の主治医意見書(要介護認定のときに主治医が書く書類)の作成にも対応しています。
まとめ
せん妄は体の状態や薬が引き金になる意識の混乱で、起きたことだけで死期が近いとは言えません。感染、脱水、便秘、痛み、薬が原因なら、それを取り除くと戻ることが多くあります。
認知症との見分け方は、急に始まったか、日によって差が大きいか、夕方から夜に悪化するかの3点です。反応が鈍くなる静かなタイプもあり、こちらは見逃されやすいので注意してください。
今夜できることは、体の状態の確認、薬の確認、明かりと時計の調整、否定しない声かけ、安全の確保、そして時間の記録です。高熱、水分が取れない、転倒、けいれんがある場合は、すぐに連絡してください。
