「夜中に何度も目が覚める」「朝起きても疲れが取れない」「日中に強い眠気に襲われる」「家族からいびきがひどいと指摘された」そんな症状に悩まされていませんか?これらは睡眠時無呼吸症候群(SAS)の典型的な症状で、放置すると高血圧、心疾患、脳卒中などの重大な合併症リスクが高まります。しかし、適切な治療を受ければ、これらの症状は大きく改善できます。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群の標準的な治療法として世界中で使用されている医療機器「CPAP(シーパップ)」の基本的な仕組みから具体的な使い方、保険適用の条件、費用目安、副作用などを包括的に解説します。睡眠時無呼吸症候群の症状に悩んでいる方、CPAP治療を検討している方はぜひ参考にしてください。
目次
CPAP(シーパップ)とは?睡眠時無呼吸症候群の治療に使われる装置

CPAP(シーパップ)とは、Continuous Positive Airway Pressure(持続陽圧呼吸療法)の略称です。これは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療において、最も効果的かつ確実な方法として確立されている治療法です。
(参考:日本呼吸器学会「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」)
睡眠中に鼻に装着した専用のマスクから一定の圧力で空気を送り込み、睡眠中に狭くなりがちな気道(空気の通り道)が塞がってしまうのを物理的に防ぎます。これにより、無呼吸や低呼吸の状態を解消し、睡眠の質を改善します。
空気圧で気道を開くメカニズム
睡眠時無呼吸症候群やいびきは、主に睡眠中に喉の筋肉が緩み、舌の付け根(舌根)などが気道に落ち込むことで発生します。CPAPは、この狭くなった気道に対し、装置本体から送られる空気の圧力(陽圧)をかけることで、気道を内側から押し広げます。
空気が通るためのスペースを常に確保し続けることで、呼吸が止まることなくスムーズに行えるようにサポートするのが基本的な仕組みです。
どんな装置を使う?
CPAP治療では、主に「CPAP装置本体」「空気を送るチューブ」「顔に装着するマスク」の3点で構成される機器を使用します。装置本体で生成された一定圧力の空気が、チューブを通り、鼻または口と鼻を覆うマスクを通じて気道に送り届けられます。
マスクには鼻だけを覆うタイプや、鼻と口を覆うフルフェイスタイプなど様々な種類があり、患者の状態や好みに合わせて選択することが可能です。
CPAPの副作用は「慣れ」によって軽減していく場合がほとんど
CPAP治療は非常に効果的ですが、いくつかの副作用が伴うこともあります。しかし、その多くは適切な対処によって軽減が可能です。
| 副作用 | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|
| 鼻・喉の乾燥、痛み | 送られてくる空気が乾燥している、マスクからの空気漏れ | 加湿器の使用、適切なマスクの選択、保湿ケア、点鼻薬の使用 |
| マスク装着部の皮膚トラブル | マスクの圧迫、材質との不適合 | 適切なサイズのマスク選択、フィッティング調整、皮膚保護材の使用 |
| お腹の張り(腹部膨満感) | 空気を飲み込んでしまう(空気嚥下) | 圧力の調整、治療への慣れ |
| 息苦しさ | 空気圧が不適切 | 医師による圧力設定の調整 |
CPAPの使用で生じる副作用は、多くの場合、治療への慣れの問題であり、まずは短い時間から装着を始め、徐々に装着時間を延ばしていくことで解消されていきます。これらの不快感によって自己判断で治療を中断せず、必ず医師に相談し、圧力の調整や対策を講じることが重要です。
CPAPの費用目安は月4500円程度から可能

プログラム・抄録集」
CPAP療法にかかる費用(保険診療、自費購入ともに)は、医療費控除の対象となります。そのため、年間の医療費が一定額を超えた場合、確定申告を行うことで税金の還付を受けられる可能性があります。
ここでは、保険適用時のレンタル料金と自費購入の場合の費用目安を紹介します。
保険診療(レンタル)の場合|月4,500円から5,000円程度
日本においてCPAP治療は、簡易検査や精密検査の結果、AHI(無呼吸低呼吸指数)が20以上など、医師によって睡眠時無呼吸症候群の診断基準を満たし、治療の必要性が認められれば健康保険が適用されます。保険診療の場合、CPAP装置は医療機関からのレンタルとなり、患者が購入する必要はありません。
費用は3割負担の場合、月1回の診察・指導管理料や装置のレンタル料、マスクなどの消耗品費を含めて、月々約4,500円から5,000円程度が目安となります。
自費購入の場合|装置一式で20万から50万円程度
保険適用外(軽症など)の場合や、保険適用の機種ではなく最新の小型機種など特定の機種を希望する場合には、CPAP装置を自費で購入することも可能です。その場合の費用は、装置一式で20万円から50万円程度が相場となります。
自費購入のメリットは、月々の定期的な通院が不要になることや、機種の選択肢が広がることですが、初期費用が高額になる点や、装置のメンテナンスも自己責任となる点には注意が必要です。
CPAPの導入から治療までの流れは?4ステップで紹介
CPAP治療を開始するには、まず医療機関での正確な診断が必要です。ここでは、検査から診断、実際の機器導入、そして治療開始後の定期的なフォローアップに至るまでの一般的なステップを紹介します。
CPAP治療を始める前には、まず睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断が必要です。
医療機関の指示のもと、自宅で可能な簡易検査や、病院に一泊して行う精密検査(PSG検査)を受け、睡眠中の呼吸状態や無呼吸の頻度、血中酸素飽和度などを詳細に測定します。
検査結果に基づき、1時間あたりの無呼吸および低呼吸の回数を示すAHI(無呼吸低呼吸指数)を算出します。
この数値が一定の基準(一般に保険適用はAHI20以上)を超える場合、中等症から重症の睡眠時無呼吸症候群と診断され、CPAP治療の適応が判断されます。
治療の開始が決定すると、医師が患者の無呼吸の状態に合わせてCPAP装置の空気圧を適切に設定します。その後、装置は専門の業者からレンタルされ、自宅に設置されます。
その際、専門スタッフから詳しい使用方法やマスクの装着方法、日々の手入れに関する説明を受けましょう。
CPAP治療は、保険診療の場合、原則として月1回の定期的な通院が必要です。診察では、装置に記録された使用データ(使用時間や無呼吸の発生状況など)を確認し、治療効果や副作用の有無をチェックします。
最近では、オンライン診療を活用してフォローアップを行う医療機関も増えています。
CPAP療法が向いている人・向いていない人
CPAP療法は多くの睡眠時無呼吸症候群の患者に高い効果を発揮しますが、すべての人に適しているわけではありません。治療の適応となる方の特徴や、他の治療法が推奨されるケースについて解説します。
CPAP療法が向いている人の特徴
CPAP治療は、特に睡眠中の無呼吸や低呼吸が頻繁に起こり、それによって日中の活動に支障が出ている方に推奨されます。
具体的には、以下のような方がCPAP治療に向いています。
- 中等度〜重度の睡眠時無呼吸症候群(SAS)と診断された方 (一般にAHI=無呼吸低呼吸指数が20以上の場合)
- 日中の耐え難い眠気や倦怠感、集中力の低下に悩んでいる方
- SASが原因で高血圧、糖尿病、心疾患などを合併している方
- 夜間の頻尿や、起床時の頭痛がある方(これらもSASの症状であるため)
CPAP療法が向いていない人の特徴
一方で、CPAP治療が適さない、あるいは他の治療法が優先されるケースもあります。SASと診断されない単なるいびきの方や、症状がごく軽微な場合は、まず生活習慣の改善などが試されます。
以下のような方は、CPAP治療が向いていないか、導入に際して慎重な検討が必要です。
- ごく軽度のいびきのみで、無呼吸や日中の眠気といった症状がない方 (SASと診断されない場合、保険適用にもなりません)
- 重度のアレルギー性鼻炎や鼻中隔弯曲症などで、常時鼻閉(鼻づまり)がひどく、鼻呼吸が困難な方 (耳鼻咽喉科での鼻の治療が優先される場合があります)
- 軽症のSASで、まずはマウスピース(スリープスプリント)治療や減量を試したい方
- 装置の圧迫感やマスクの装着感に対する不快感が非常に強く、継続使用が困難な方
まとめ|CPAPは「継続」が最大の治療効果を生む
CPAP(シーパップ)は持続陽圧呼吸療法のことで、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の標準的な治療法として世界中で使用されている医療機器です。就寝時に鼻や口にマスクを装着し、専用の機械から一定の圧力をかけた空気を送り込むことで、気道の閉塞を防ぎ無呼吸を改善します。
CPAPの仕組みは、睡眠中に緩んで狭くなった気道に空気を送り込んで圧力をかけることで、気道を物理的に広げて開いた状態を保つというものです。これにより、いびきや無呼吸が劇的に減少し、深い睡眠が得られるようになります。効果として、日中の眠気や集中力低下の改善、高血圧や心疾患などの合併症リスクの軽減が期待できます。
使い方は、就寝前にマスクを装着してスイッチを入れ、朝起きたら外すだけと非常にシンプルです。費用は保険適用で月額5,000円前後(3割負担の場合)で、毎月の診察が必要です。保険適用の条件として、AHI(無呼吸低呼吸指数)が20以上、または5以上20未満で日中の眠気などの症状があることが求められます。
主な副作用として、マスクによる肌の圧迫感や赤み、鼻やのどの乾燥、空気の圧力による腹部膨満感などが報告されていますが、ほとんどは慣れや調整で改善できます。効果的に使うポイントは、マスクのフィット感を調整する、加温加湿器を使用して乾燥を防ぐ、毎日継続して使用することの3つです。
定期的なメンテナンスとして、マスクとチューブは毎日洗浄し週1回消毒、フィルターは月1回交換、マスクのクッション部分は3〜6ヶ月ごとに交換することが推奨されます。
